訪日リピーター向け商品設計|2回目以降の客をどう動かすか
訪日リピーター向け商品設計|2回目以降の客をどう動かすか
訪日リピーター向け商品が売れない最大の原因は、「リピーターが増えている」という前提そのものが数字の読み違えだからです。 観光庁のインバウンド消費動向調査では、初めて日本を訪れた人の割合が2023年31.9%→2024年34.3%→2025年35.4%と3年連続で上昇しています。つまり2回目以降の客が占める比率は68.1%→65.7%→64.6%と、逆に3年で3.5ポイント下がっています。 よく引用される「リピーター率約65%」は水準であって上昇トレンドではありません。 一方で2025年の訪日外国人旅行者数は約4,268万人と過去最高ですから、比率が下がっていてもリピーターの絶対数は増えています。 ここから導かれる実務上の結論は一つで、リピーター向け商品は「全社の主力商品」ではなく「明確に切り出したセグメント商品」として設計すべきだということです。設計の軸は3つです。①地方部——2025年の外国人延べ宿泊者数1億7,992万人泊のうち、三大都市圏は1億1,936万人泊(前年比+5.1%)に対し地方部は6,056万人泊(同+19.1%)と、伸び率で地方部が都市部の約3.7倍です(地方部シェアは約33.7%)。②訪日回数の段階差——DBJ・JTBFの調査(2025年7月、韓国・中国・台湾・香港の海外旅行経験者7,413人)では、地方への訪問「意向」は初訪日94%・2〜5回96%・6回以上99%とほぼ全員が持っているのに、実際の訪問「経験」は初訪日69%・6回以上92%と差があります。動機ではなく手段が足りていないという構造です。③日付固定型の体験——6回以上の層では札幌雪まつりや長岡花火といった祭り・イベントへの関心が高く、台湾は祭り、香港は相撲・プロスポーツ観戦に寄る傾向が指摘されています。リピーター商品とは「新しい観光地を足す」ことではなく、「都市部で完結しない移動手段」と「その日にしか成立しない体験」を仕入れることです。
本記事は公表統計と一般的な実務の整理であり、個別案件の採算や実現可能性を保証するものではありません。 引用した数値は調査時点のものであり、調査手法・集計区分・速報値と確報値の別によって変わります。商品造成や送客元への提案の前に、観光庁「インバウンド消費動向調査」「宿泊旅行統計調査」、日本政府観光局(JNTO)の最新公表値、および仕入先の最新条件を必ずご確認ください。 記載した価格帯・日数はすべて設計上の目安です。
訪日回数帯別:どの商品が刺さり、どの商品が刺さらないか
| 段階(訪日回数) | 行動特性 | 地方訪問 | 想定滞在 | 有効な商品タイプ | 造成の要点 | 刺さらない商品 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1回目(初訪日) | ゴールデンルート志向。定番を落とせない | 経験率69% | 5〜7泊 | 東京・京都・大阪の定番周遊+著名スポット | 失敗しない導線。多言語対応と移動の分かりやすさ | 地方単独商品、テーマ特化型 |
| 2〜3回目 | 定番は済み。次の「有名どころ」を探す段階 | 意向96%だが手段不足 | 4〜6泊 | 都市+近郊1泊(箱根・日光・金沢など)、季節商品 | 都市を起点に「1泊だけ地方を足す」設計。二次交通を商品に内包 | 全行程地方の周遊、上級者向けニッチ |
| 4〜5回目 | 目的地ではなく「目的」で選ぶ。温泉・食・自然 | 経験率が大きく伸びる帯 | 4〜7泊 | テーマ特化(温泉旅館連泊、郷土料理、自然・アクティビティ) | 直行便のある地方空港を起点にする。都市を経由させない | 都市部の定番周遊(既に飽和) |
| 6回以上(ヘビーリピーター) | 日付を先に決めて動く。祭り・イベント・スポーツ | 経験率92% | 3〜10泊 | 日付固定型(祭り・花火・雪まつり)、観戦、体験参加型 | 日付が動かせない前提での座席・宿の先押さえ | 汎用の周遊商品。「いつでも行ける」提案 |
| 在住者・準リピーター(年数回) | 短期・単一目的。週末型 | 高い | 1〜3泊 | 単発体験、イベント単品、宿+交通のダイナミックパッケージ | 手配単位が小さく件数が多い。FIT体制が前提 | 最少催行人数の大きい団体商品 |
※この表の「段階」は商品設計上の区分であり、統計の公式区分ではありません。 引用した地方訪問経験率(初訪日69%、6回以上92%)はDBJ・JTBF調査の東アジア4市場(韓国・中国・台湾・香港)の値です。欧米豪は訪日回数の分布も滞在日数も大きく異なるため、この表をそのまま当てはめないでください。
※滞在泊数と単価の目安は設計上の想定値であり、公表統計から直接得た数値ではありません。 参考として、2025年の訪日外国人(一般客)1人当たり旅行支出は22万9千円(前年比+0.9%)、訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円(同+16.4%)です。リピーターほど泊数・消費単価が伸びる傾向は各種調査で指摘されていますが、訪問回数帯別の単価は集計区分によって差が出ます。 提案書に数値を載せる場合は、必ず出典年と集計対象(目的別・国籍別・クルーズ客の扱い)を明記してください。
※最も大きい断層は「2〜3回目」と「4〜5回目」の間にあります。 2〜3回目は都市を拠点にしたまま地方を1泊足す形でしか動きません。ここに全行程地方の商品を当てても売れず、逆に4〜5回目以降に都市部の定番周遊を当てても売れません。同じ「リピーター向け」でも、この2つは別商品として仕入れも催行条件も分ける必要があります。
なぜ「地方に行きたい人」がいるのに地方商品が売れないのか?
意向と経験の差が示しているのは需要不足ではなく、移動手段の不足だからです。 地方訪問意向は初訪日でも94%、6回以上では99%とほぼ全員が持っています。にもかかわらず経験率は初訪日69%にとどまります。この30ポイント近い差は、行きたくないからではなく、行き方が組めないから生まれています。
第1に、地方商品は「航空路線ありき」でしか成立しません。 2025年の外国人延べ宿泊者数を都道府県別の伸び率で見ると、鳥取県+72.0%、新潟県+60.6%、三重県+57.7%、富山県+54.5%と地方県が上位に並びます。鳥取県の伸びの背景として挙げられているのは、米子空港のソウル便再開・増便と台湾便の運航拡大です。 つまり地方部の伸びは「発見された」からではなく「直行便が就いた」から起きています。 商品造成の順序は、魅力的な素材を探す→送客する、ではなく、就航路線を確認する→その圏内で素材を組むです。送客元の市場と直行便の有無が合っていない地方商品は、どれだけ素材が良くても販売数が立ちません。
第2に、二次交通が商品の外に置かれています。 地方空港や新幹線駅に着いた後の移動が「現地で各自」になっている商品は、リピーターであっても選ばれません。都市部と違って、地方は鉄道・バスの本数が少なく、最終便が早く、時刻表が季節で変わります。 二次交通を手配に内包していない地方商品は、実質的に「上級者専用」です。2〜3回目の層を地方に動かしたいのであれば、二次交通は商品に含める以外の選択肢がありません。
第3に、「都市+1泊」の形にしないと在庫が回りません。 全行程地方の周遊商品は、送客元にとって販売難易度が高く、催行最少人数に届きにくいという問題があります。都市部の既存商品に地方1泊を足すモジュール型にすれば、①既存の販売チャネルにそのまま載る、②催行判断が都市部側の集客に支えられる、③地方側の仕入れが1泊分で済むため在庫リスクが小さい、という3点で成立しやすくなります。
第4に、地方への送客は消費額ベースではまだ小さい規模です。 地方部の消費額は約2兆円で、インバウンド消費全体に占める割合は24.8%とされています。宿泊者数のシェア(約33.7%)より消費額シェアが低いのは、地方部では宿泊単価・買物単価が都市部より低くなりやすいためです。「地方は伸びているから利益も出る」とは限りません。 地方商品は単価ではなく、催行率と稼働の平準化(閑散期・平日を埋める)で採算を取る設計にしてください。
第5に、地方誘客の動機は「知名度」ではなく「温泉・自然・郷土料理」です。 DBJ・JTBF調査で地方訪問の主な動機として挙がっているのはこの3つです。知名度の高い観光地を並べる発想から、体験カテゴリで括る発想に切り替えてください。 「金沢に行く」ではなく「郷土料理を食べる」、「東北に行く」ではなく「温泉に連泊する」という商品名・訴求のほうが、意向を持つ層に届きます。
ヘビーリピーター向けの「日付固定型」商品は何が違うのか?
通常の周遊商品と決定的に違うのは、日付が動かせないことです。 これは仕入れ・催行判断・キャンセル規定のすべてに影響します。
6回以上の層は、行き先ではなく日付から旅程を決めます。 調査では、この層で札幌雪まつりや長岡花火といった祭り・イベントへの関心が相対的に高いこと、台湾市場は祭り、香港市場は相撲やプロスポーツ観戦への関心が強いことが指摘されています。この層に汎用の周遊商品を提案しても動きません。「いつ行っても同じ体験ができる」ことが、彼らにとっては価値ではないからです。
日付固定型商品の設計では、次の5点が通常商品と異なります。
- 仕入れが先、販売が後になります。 開催日が確定した時点で宿と座席を押さえないと、そもそも商品になりません。開催地周辺の宿泊在庫は、大規模イベントでは1年前から動きます。 販売見込みが立ってから仕入れる通常の順序は使えません。
- 観覧席・入場枠が別ルートで、抽選や先着になる場合があります。 花火大会の有料観覧席のように、旅行会社の通常の仕入れルートとは別の販売スキームで流通する枠があります。確保できなかった場合に商品が成立するか(観覧席なしでも催行するか)を、販売開始前に決めてください。
- 開催日が年によって変わります。 例えば札幌雪まつりは例年2月上旬の開催ですが、会期は毎年主催者が決定します。 長岡まつり大花火大会のように日付が固定されている行事もありますが、「例年どおり」を前提に仕入れず、毎年主催者の公式発表で会期を確認してから商品化してください。
- 中止・荒天時の扱いを先に決める必要があります。 屋外イベントは荒天中止・順延があります。順延した場合に旅程を1日延ばせるのか、宿の延泊は取れるのか、取れない場合の返金範囲はどうかを、販売条件に明記しないと、当日に判断できません。
- 周辺の交通・宿が同時に逼迫します。 大規模イベント時は開催地の宿泊在庫と貸切車両が同時に枯渇し、価格も上がります。「開催地に泊まる」前提を外し、1〜2駅離れた地域や隣接都市に泊めて往復させる設計のほうが、在庫を確保しやすい場合があります。
あわせて、この層には「参加型」が効きます。 見学ではなく、体験に参加する、地元の人と接点がある、その季節にしか作れない/食べられないものという要素です。ただし体験型は1回あたりの受入人数が小さく、団体商品に組み込むと催行人数の上限がボトルネックになります。 受入可能人数を確認せずに団体商品に組み込むと、販売後に分割催行や代替手配が必要になります。
送客元にどう出すか:販売条件と測るべき指標
リピーター商品は、既存の団体商品と同じ販売条件では流通しません。 手配単位が小さく、日程の自由度が求められ、決定が直前になるためです。
第1に、催行最少人数を下げるか、無くしてください。 2回目以降の客は団体ではなく少人数・個人単位で動きます。 最少催行人数15名の商品は、この層にはほぼ届きません。FIT・小ロット手配を回せる体制がないまま、リピーター向け商品を作っても在庫が滞留します。
第2に、在庫とレートをリアルタイムで出せる形にしてください。 リピーターは検討期間が短く、「空き状況を問い合わせて2営業日後に回答」という運用では機会損失になります。 OTAや海外旅行会社に配信する場合、在庫の同期が取れていないとオーバーブッキングが発生します。
第3に、日付固定型は販売期間を明示してください。 「いつでも申込可」ではなく、仕入れ枠の確保状況に応じた販売締切を先に切ります。イベント商品は締切後のキャンセル規定を通常商品より厳しくせざるを得ないため、その条件を送客元と事前に合意しておく必要があります。
第4に、測る指標を通常商品と変えてください。 リピーター商品の成否は販売数だけでは判断できません。最低限、次の4つを取ってください。
- 催行率(設定本数のうち実際に催行した割合)——リピーター商品は少人数前提のため、催行率が採算を直接左右します。
- 地方部宿泊比率(商品全体の泊数のうち地方部が占める割合)——分散送客の実績値。自治体・DMOへの提案根拠にもなります。
- 平日・閑散期の稼働比率——リピーター商品の本来の役割は繁忙期の上積みではなく、稼働の平準化です。ここが上がっていないなら、既存客の需要を移し替えただけの可能性があります。
- 同一送客元からの再発注率——単発のヒットか、定番化できたかの判別。
最後に、既存商品の共食いを必ず確認してください。 リピーター商品を投入した後、既存の主力周遊商品の販売数が同額分だけ落ちているなら、新規需要ではなく需要の移動です。投入前後で全体の販売数と粗利総額を並べて見てください。 リピーター向けは単価が伸びる一方で手配工数が増える(少人数・多品目・個別対応)ため、1件あたりの粗利が増えても、手配時間あたりの粗利は下がることがあります。 工数を測らずに商品数だけ増やすと、繁忙期に手配部門が先に破綻します。
FAQ
Q. 訪日リピーターの割合はどのくらいですか? 観光庁の調査では初訪日の割合が2025年に35.4%で、2回目以降は約64.6%です。ただし初訪日比率は2023年31.9%から3年連続で上昇しており、リピーター比率は水準として高いものの、トレンドとしては低下しています。
Q. リピーター向けはやはり地方送客が正解ですか? 方向としては合っています。2025年の外国人延べ宿泊者数は地方部が前年比+19.1%と三大都市圏の+5.1%を大きく上回りました。 ただし地方部の消費額シェアは24.8%と宿泊シェアより低く、単価では稼げません。催行率と稼働平準化で採算を取る設計にしてください。
Q. 地方商品を作るとき、最初に確認すべきことは何ですか? 送客元市場からの直行便の有無です。 2025年に伸び率上位となった鳥取県(+72.0%)は、米子空港のソウル便再開・増便と台湾便拡大が背景として挙げられています。素材より先に路線を確認してください。
Q. 何回目の客から地方単独の商品が成立しますか? 実務上の目安は4〜5回目以降です。2〜3回目の層は都市部を拠点に地方を1泊足すモジュール型でないと動きません。地方訪問経験率は初訪日69%に対し6回以上で92%まで上がります(東アジア4市場)。
Q. 祭り・花火などのイベント商品で最も多い失敗は何ですか? 荒天中止・順延時の扱いを決めずに販売することです。 順延時に延泊が取れるか、返金範囲はどこまでかを販売条件に明記してください。あわせて会期は毎年主催者の公式発表で確認し、「例年どおり」を前提に仕入れないでください。
Last updated: 2026-08-18