旅行業約款と取消料・旅程保証|訪日手配で揉めないための実務
旅行業約款と取消料・旅程保証|訪日手配で揉めないための実務
結論から言うと、訪日手配で取消料が揉める原因のほとんどは「約款の読み違い」ではなく、契約が2本(旅行者⇄旅行会社/旅行会社⇄仕入先)あるのに、取消料のタイムラインを1本で管理していることです。 標準旅行業約款(募集型企画旅行・国内旅行)では、旅行者からの解除に対して収受できる取消料は前日から遡って21日目以前は無料、20日目〜8日目は旅行代金の20%、7日目〜2日目は30%、前日40%、当日50%、開始後は100%という段階になります。一方で仕入先(宿・貸切バス・体験施設)の取消料は、それぞれ別の起算日と別の料率で走ります。 このズレは、B2B契約で転嫁・精算の条件を定めていなければ、そのまま旅行会社の持ち出しになり得ます。
そして最初に確認すべきはもっと手前です。「自社が今やっている取引に、そもそも標準旅行業約款が適用されるのか」。 標準旅行業約款は旅行業者と旅行者の間の契約を規律するものであって、旅行会社とランドオペレーターの間のB2B取引を直接規律するものではありません。旅行サービス手配業として旅行業者等から受託するB2B手配それ自体には、企画旅行契約に係る旅程保証・特別補償は適用されません。 B2B側の取消条件は、標準約款ではなく取引基本契約と個別の発注条件で決まります。
ただし、これは「ランドオペレーターだから何も負わない」という意味ではありません。 旅行サービス手配業は契約類型ではなく登録業態です。同じ法人が旅行業者として旅行者と企画旅行契約を結んでいる部分については、当然に企画旅行としての義務がかかります。自社の中で「どの案件のどの部分がどちらか」を分けずに一律で語ると、根拠のない条件を相手に主張することになります。
なお、本記事に挙げる料率・日数・金額は標準旅行業約款の枠組みを説明するための目安であり、貴社が実際に届出・掲示している約款の条文でも、最新版でもありません。約款は改正されます。必ず観光庁が公表する最新の標準旅行業約款の原文と、自社が現に使用している約款・契約書面に当たって確認してください。 個別事案の法的判断は弁護士に依頼してください。
契約類型で責任範囲はどう変わるのか:4つの立ち位置の比較
| 立ち位置 | 誰と誰の関係か | 標準約款上の旅程管理 | 旅程保証(変更補償金) | 特別補償 | 取消料の根拠 |
|---|---|---|---|---|---|
| 募集型企画旅行(契約類型) | 旅行業者⇄旅行者(あらかじめ旅行業者が企画し募集) | あり | あり | あり | 標準約款の別表(段階的な料率) |
| 受注型企画旅行(契約類型) | 旅行業者⇄旅行者(依頼を受けて企画) | あり(条項の書きぶりと特約の余地を要確認) | あり | あり | 標準約款の別表+企画料金の扱いが別建て |
| 手配旅行(契約類型) | 旅行業者⇄旅行者(手配の代行を引き受ける) | 企画旅行としての旅程管理条項はなし | なし | なし | 取消手続料金+仕入先に実際に発生した取消料+所定の取扱料金 |
| 旅行サービス手配業(登録業態) | 旅行業者等⇄手配業者(B2B受託) | — | なし | なし | 取引基本契約・個別発注条件(標準約款の適用外) |
※「手配旅行=何も負わない」ではありません。 標準約款に企画旅行としての旅程管理条項がない、という意味であって、個別契約で引き受けた現地対応・連絡・代替手配の義務や、受任者としての注意義務は別途生じ得ます。 表の「なし」は、免責の証明書ではありません。
この表の使い方は「自社がどの行にいるか」ではなく、「1件の訪日案件の中で、自社が同時に複数の行にまたがっていないか」を確認することです。 訪日の実務では、海外の旅行会社等の依頼を受けて手配を行う部分は旅行サービス手配業に当たり得る一方、自社サイトで直販した部分は企画旅行、というように1つのオペレーションの中で立ち位置が混在するのが普通です。混在したまま同じ取消規定で運用すると、企画旅行に必要な旅程保証・特別補償の手当てが抜けたり、逆にB2B取引で不要な義務を自分に課したりします。
なお、発注者が海外の旅行会社であることだけでは、自社の立ち位置は決まりません。 判断されるのは、自社が旅行者との契約当事者になっているか、旅行業者等の依頼を受けて手配を行っているか、企画・募集をしているかです。相手の所在地ではなく、契約の構造で決まります。
また、企画旅行か手配旅行かは、契約書のタイトルではなく実態で判断されます。 「手配旅行」と書いていても、行程を自社で組み、一括の旅行代金で売り、催行を約束していれば企画旅行と評価されうる余地があります。登録区分(第1種〜第3種、地域限定、旅行サービス手配業)によって取り扱える業務の範囲も違うため、新しい売り方を始める前に自社の登録区分で可能かを確認してください。
標準約款の取消料は具体的にどの段階で発生するのか?
募集型企画旅行・国内旅行の場合、標準旅行業約款が定める取消料の上限は次の段階です。
| 旅行者による解除の時期 | 取消料(旅行代金に対する上限) |
|---|---|
| 旅行開始日の前日から起算して遡って21日目(日帰り旅行は11日目)以前 | 無料 |
| 20日目(日帰りは10日目)〜8日目 | 20% |
| 7日目〜2日目 | 30% |
| 旅行開始日の前日 | 40% |
| 旅行開始当日(開始前) | 50% |
| 旅行開始後、または無連絡不参加 | 100% |
訪日客が相手でも、行程が日本国内で完結する旅行は約款上「国内旅行」として扱われます。 客が外国籍・海外在住であることは、この区分を変えません。海外旅行の別表は起算日も料率も別の構造(ピーク時の扱いを含む)になっているため、「訪日=海外旅行の表」と取り違えないでください。
そのうえで、実務上の注意点が3つあります。
- これは「上限」であって「請求すべき額」ではありません。 標準約款は所定の額を上限として収受できる建て付けです。取消料をいくらに設定するかは商品設計の判断であり、上限どおりに取るのが自動的に正しいわけではありません。
- 受注型企画旅行では企画料金の扱いが別に立ちます。 標準約款の受注型の別表は、「契約書面において企画料金の金額を明示した場合」に、通常の取消料発生日より前の解除であっても企画料金相当額を収受できる建て付けです。要件は「契約書面への明示」であり、企画書面に書いただけでは足りません。 明示がなければ、標準約款のこの取消料根拠は使えません(別途の合意や損害賠償請求の可否は個別に検討することになります)。オーダーメイドの訪日案件で「設計に工数をかけたのに直前で流れた」を防ぐ実質的な手当ては、この契約書面上の明示です。
- 貸切船舶を利用する場合は、別表の通常料率ではなく当該船舶に係る取消料規定によります。 これは「特定の運送機関一般」の話ではなく、貸切船舶についての但し書きです。クルーズ・チャーター系を扱う場合は、募集型・受注型それぞれの別表の但し書きを原文で確認してください(寄港地側の設計は「b2b-cruise-kikochi-kanko-tehai」を参照)。
仕入れ側と販売側の取消料は、なぜズレて逆ザヤになるのか?
理由は、起算日と料率の設計思想が違うからです。 販売側(旅行者⇄旅行会社)は約款で段階的に決まりますが、仕入側(旅行会社⇄宿・バス・施設)は各事業者の任意の契約条件です。典型的なズレ方は次の4つです。
- 宿のリリース日と取消料。アロットメント契約では、枠を返す期限(リリース日)を過ぎた分に取消料や違約金が立ちます。この期限が販売側の「21日目無料」より手前に来ることは珍しくありません。 つまり旅行者からは1円も取れない時期に、宿には払う義務が発生している状態が生まれます。契約実務は「b2b-allotment-shukuhaku」にまとめています。
- 貸切バスの取消料。貸切バスの運賃・料金は車種区分ごとに地方運輸局が公示する基準を基礎に算定される構造で、取消料も配車日からの日数に応じて段階的に立ちます。 繁忙期に押さえた車両を減車する場合、減車のタイミングによっては料金が下がらないことがあります。詳細は「b2b-kashikiri-bus-tehai」。
- 人数変動(減員)の締切。宿・バス・体験施設・レストランは、それぞれ別の減員締切を持ちます。団体で「20名→14名」になったとき、6名分がどこで有料化するかは4つとも違います。最も手前の締切が、実質的な自社の意思決定期限です。
- 通貨と前払。海外の送客元から外貨建てで受け、国内へ円で払う構造では、取消が発生した時点のレートで持ち出し額が変わります。 考え方は「b2b-kawase-rate-kanri」を参照。
実務の打ち手は「約款を変える」ではなく「タイムラインを1枚にする」です。 案件ごとに、①旅行者側の無料解除期限、②各仕入先の減員締切・リリース日、③各仕入先の取消料発生日を同じカレンダー上に並べ、最も手前の日を「意思決定デッドライン」として発注書と社内の管理表の両方に書き込みます。 これをやらずに「約款上は21日前まで無料です」と客に伝えるのが、逆ザヤの起点です。
B2B取引側では、条件を非対称にしないことも重要です。 送客元の旅行会社が自社の顧客に対して負う取消料と、自社が送客元に対して請求する取消料が食い違うと、間に立つ側が全部かぶります。取引基本契約で、減員締切・取消料の起算日・不可抗力時の負担・通貨と支払期日を、仕入側の条件と突き合わせて設定してください。
旅程保証(変更補償金)は、どこまでカバーされるのか?
旅程保証は「変更が起きたら常に補償する制度」ではありません。 標準旅行業約款上、企画旅行契約の内容に一定の重要な変更が生じたとき、旅行業者が旅行代金に所定の率を乗じた変更補償金を支払う仕組みです。対象となる変更の種類と免責事由が限定されています。
また、「過失を問わない制度だから何でも変更補償金で処理できる」わけでもありません。 標準約款は、その変更について旅行業者の損害賠償責任が発生することが明らかな場合には、変更補償金ではなく損害賠償の問題として扱う構造になっています。自社の手配ミスが原因の変更を、変更補償金の率で頭打ちにできると考えないでください。
対象となる変更の例と、変更補償金の率(旅行代金に対する率)の考え方は概ね次の構造です。
| 変更の内容(抜粋) | 旅行開始前の通知 | 旅行開始後の通知 |
|---|---|---|
| 旅行開始日・終了日の変更 | 1.5% | 3.0% |
| 入場する観光地・観光施設等、旅行の目的地の変更 | 1.0% | 2.0% |
| 運送機関の等級・設備がより低い料金のものへ変更 | 1.0% | 2.0% |
| 宿泊機関の種類・名称の変更 | 1.0% | 2.0% |
| 客室の種類・設備・景観その他の条件の変更 | 1.0% | 2.0% |
| 上記のような変更事項が、ツアー・タイトル中にも記載されていた場合 | 2.5% | 5.0% |
※上表は別表の一部を要約したものです。項目・率・適用条件の全体は必ず原文で確認してください。
※最終行の読み方に注意してください。 これは「タイトルに書いた表現なら何でも高い率になる」という規定ではなく、別表に列挙された変更事項に該当する変更が、あわせてツアー・タイトルにも記載されていた場合に、より高い率を適用するという構造です。
実務で押さえるべきは、率そのものより次の4点です。
- 上限と下限がある。 1旅行契約あたりの変更補償金には旅行代金に対する上限(標準約款では15%)が設定され、算出額が一定額(1,000円)未満のときは支払わない、という設計になっています。「全部変わったから全額返金」にはならない制度です。
- 免責が広い。 天災地変、戦乱、暴動、官公署の命令、運送・宿泊機関等のサービス提供の中止、当初の運行計画によらない運送サービスの提供、旅行者の生命・身体の保護に必要な措置——これらによる変更は、原則として変更補償金の対象外です。訪日で頻発する台風・大雪・鉄道の運転見合わせは、多くがここに入ります。
- ただしオーバーブッキングは免責されない。 運送・宿泊機関等がサービスの提供自体は行っているのに、座席や部屋の過剰予約受付等によって変更が生じた場合は、免責の対象になりません。「宿が取れなかった」を全部天災扱いにできると考えないでください。
- タイトルに固有名詞を書くと、率が上がる側に寄る。 販売ページのタイトルに「◯◯ホテル泊」「金閣寺」と具体名を入れると、その事項が別表の変更項目に該当して変わったとき、より高い率が適用される側に入ります。 タイトルに何を書くかは、マーケティングの判断であると同時に補償責任の設計です。
そして、免責に当たるかどうかと、旅程管理を果たしたかどうかは別の話です。 企画旅行では、変更補償金が不要なケースでも、標準約款の旅程管理条項に基づく必要な措置(代替サービスの手配等)の問題が別に残ります。 ただし受注型企画旅行では条項の書きぶりと特約の余地が異なり、手配旅行・B2B手配では個別契約の定めによります。 「企画旅行と同じ義務がどこでも残る」と読まないでください。運休・欠航時の現場設計は「b2b-inbound-trouble-taio」にまとめています。
特別補償と旅程保証は何が違うのか、保険は要るのか?
別の制度です。混同すると、客への説明を間違えます。
- 旅程保証=契約内容が変わったことに対する補償(変更補償金)。対象は行程・宿・運送機関等の変更。
- 特別補償=旅行者の身体・携帯品に生じた損害に対する補償。企画旅行に参加中の旅行者が急激かつ偶然な外来の事故で被った一定の損害について、旅行業者の責任の有無を問わず、約款に付属する特別補償規程に基づいて補償金・見舞金を支払う仕組みです。国内旅行と海外旅行で死亡補償金の額が異なり、携帯品損害についても限度額が定められています。
実務上の要点は3つです。
- 手配旅行と旅行サービス手配業には、どちらの制度も付きません。 B2Bで受けている案件について「特別補償があるので安心です」と説明するのは誤りです。
- 特別補償は旅行者自身の海外旅行保険等を代替しません。 補償の対象・限度額は限定的で、訪日客の医療費実額をカバーする設計ではありません。 訪日客側の保険加入確認は別途必要です(考え方は「b2b-inbound-hoken-jiko-taio」)。
- 自社側の賠償責任は、旅程保証・特別補償とはさらに別に残ります。 手配のミスや説明義務違反による損害は、これらの制度ではなく一般の債務不履行・不法行為の枠組みで問われます。旅行業者賠償責任保険等の付保状況を、年に一度は補償範囲と限度額まで見直してください。
訪日客への説明と契約書面に、何をどう書けば揉めないのか?
揉める案件の共通点は、条件が「書いていない」のではなく「客が読める言語で、決める前に、見える場所に」書かれていないことです。 次の順で潰します。
- どの契約類型で売っているかを、書面の冒頭で確定させる。 企画旅行なら約款の該当部、手配旅行なら手配旅行契約の部を明示します。交付の時点を取り違えないでください。取引条件説明書面は契約を締結する前に、契約書面は契約成立後に、法令・約款所定の時期と方法で交付します。 また約款は営業所への掲示または備置きが求められます。 訪日直販でウェブ完結にする場合は、申込みを決める前の段階で、取消条件と約款に到達できる導線があるかを実機で確認してください。
- 取消料は「率」ではなく「日付と金額」で提示する。 「20日前から20%」ではなく「◯月◯日以降のお取消しは◯◯円」と、その予約に対する実額のカレンダーを出します。訪日客との紛争の多くは、率の解釈ではなく起算日の解釈です。「前日から起算して遡って」の数え方は直感と1日ずれます。
- 言語と記録。 英語・中国語等で提示する場合、日本語版との齟齬が生じたときにどちらが優先するかを明記します。そのうえで、いつ・どの版を・どの手段で提示し、相手がいつ同意したかの記録を残してください。
- 海外OTA・海外旅行会社経由は、チャネルごとに契約当事者を確認してから組む。 確認するのは販売者は誰か、代理店にすぎないのか、旅行契約の当事者は誰か、準拠法と約款はどう組み込まれているかの4点です。海外事業者が販売代理店にすぎず、日本の旅行業者が旅行者との契約当事者になっている構造もあります。 逆に、日本側が契約当事者でない場合、自社の標準約款をエンドユーザーに当然には対抗できません。 「日本の約款ではこうなっている」を一律の根拠にしないでください。販売チャネル側の条件差の管理は「b2b-ota-renkei-zaiko」を参照。
- 不可抗力時の負担配分を、事前に文章にしておく。 台風・地震・大雪・感染症・運休で行程が崩れたとき、どの費用を誰が持つか(延泊費、代替交通費、キャンセルとなった仕入分)を契約に書きます。書いていない場合は、契約解釈・適用法・取引慣行・個別事情に委ねられ、結論が読めないまま紛争化しやすくなります。
FAQ
Q. 訪日客の国内ツアーは、約款上「国内旅行」と「海外旅行」のどちらですか? A. 行程が日本国内で完結するなら国内旅行の規定によります。旅行者の国籍や居住地では変わりません。取消料の起算日と料率が別表ごとに違うので取り違えないでください。
Q. ランドオペレーターにも旅程保証の義務がありますか? A. 旅行サービス手配業として受託するB2B手配それ自体には適用されません。ただし同じ法人が旅行者と企画旅行契約を結ぶ部分は別です。立ち位置を案件ごとに分けてください。
Q. 台風で行程が変わったら変更補償金を払うのですか? A. 天災地変等による変更は原則として免責です。ただし企画旅行では免責でも旅程管理条項に基づく代替手配の問題が残り、宿のオーバーブッキングは免責の対象外です。
Q. 取消料は標準約款の上限どおりに請求すべきですか? A. 上限であって義務ではありません。ただし仕入先の取消料が先に発生している場合、上限より低く設定すると差額は自社の持ち出しになります。
Q. 受注型で企画に工数をかけたのに直前で流れました。請求できますか? A. 契約書面に企画料金の金額を明示していれば、通常の取消料発生日前の解除でも相当額を収受できる建て付けです。企画書面への記載だけでは要件を満たしません。
Last updated: 2026-08-30