災害・BCP 時の訪日客対応|地震・台風で止まった時の手順
災害・BCP 時の訪日客対応|地震・台風で止まった時の手順
訪日客の災害対応は、発災から72時間を「動かさない前提」で設計する。 東京都帰宅困難者対策条例は一斉帰宅の抑制を掲げ、事業者に水・食料等の備蓄を求めている。東京都はハンドブックで、従業員向けに3日分、来社中の顧客など外部の帰宅困難者向けに10%程度の上乗せを目安として示している。行き場のない人を受け入れる一時滞在施設も、開設は発災から72時間(最大3日間)程度が前提である。旅行者への払戻しと変更補償の線引きは標準旅行業約款が定め、天災地変による行程変更に変更補償金は出ない(第29条第1項第1号イ)。一方、仕入先との取消料・精算は個別契約で決まる。契約が続いており第23条と異なる特約もなければ、代替サービスを手配する旅程管理義務(第23条)は残る。さらに2026年5月29日から防災気象情報の名称が変わったため、多言語の案内テンプレートは差し替えが要る。
事由別|誰が無償で解除でき、誰が払うのか
下表は観光庁が公示する標準旅行業約款の募集型企画旅行契約の部に基づく。受注型企画旅行、手配旅行、旅行サービス手配業(ランドオペレーター受託)では結論が変わる。
| 事由 | 旅行者の無償解除 | 変更補償金 | 自社の賠償責任 | 実務で効く条文 |
|---|---|---|---|---|
| 天災地変(地震・台風そのもの) | 要件を満たせばできる(旅行開始前に、安全かつ円滑な実施が不可能または不可能となるおそれが極めて大きいとき・第16条第2項第3号) | 出ない(第29条第1項第1号イ) | 故意・過失がなければ負わない(第27条第2項。第1項の場合を除く) | 契約が続く限り第23条の代替手配義務は残る |
| 運送・宿泊機関等のサービス提供の中止(計画運休・休館) | 要件を満たせばできる(同上・第16条第2項第3号) | 出ない(同号ホ) | 故意・過失がなければ負わない(第27条第2項) | 未提供分は取消料等を差し引いて払戻し(第16条第4項) |
| 当初の運行計画によらない運送サービス(大幅遅延・経路変更) | 事由の程度による | 出ない(同号ヘ) | 故意・過失がなければ負わない(第27条第2項) | 代替手段を何分で出したかが評価の分かれ目 |
| 官公署の命令(通行止め・入山規制) | 要件を満たせばできる(同上・第16条第2項第3号) | 出ない(同号ニ) | 故意・過失がなければ負わない(第27条第2項) | 発出元と時刻を記録する |
| 生命・身体の安全確保のため必要な措置(自主的な行程短縮) | — | 出ない(同号ト) | — | 判断根拠を残さないと後で争点になる |
| 自社・手配代行者の故意または過失(連絡漏れ・手配ミス) | できる(第16条第2項第5号) | 変更補償金ではなく損害賠償の問題になる(第29条第1項ただし書) | 負う(第27条第1項) | 通知期限は損害発生の翌日から2年 |
この表で現場が一番取り違えるのは、3列目と5列目の関係である。 天災地変なら変更補償金は出ない。しかし契約が継続しており、第23条と異なる特約を結んでいない限り、旅程管理は別の義務として残る。「受けられないおそれ」があれば必要な措置を講じ、変更せざるを得ないときは代替サービスを手配し、当初の旅行日程の趣旨にかなうよう変更を最小限にとどめる努力が求められる。変更補償金が出ないことと、何もしなくてよいことは、約款上まったく別である。
地震で交通が止まったとき、最初の72時間に何をするのか
順番を固定する。① 人数の確定 → ② 留める → ③ 滞在先の確保 → ④ 情報提供 → ⑤ 記録。 この順番を崩すと、人数が確定しないまま移動を始めて点呼が二度手間になる。
警告:津波・火災・建物被害などの差し迫った危険、または避難指示がある場合は、待機ではなく避難が先である。 その危険がないことを確認したうえで、「帰さない」を初動の原則にする。東京都は条例で一斉帰宅の抑制を掲げ、発災時はむやみに移動せず安全な場所に3日間留まるよう呼びかけている。訪日団体は土地勘がなく、徒歩帰宿の判断材料を持たない。安全を確認した場所で待機させ、移動先は自治体等が案内する開設済みの施設を確認してから決める。
留めた先には3つの類型があり、性格が違う。
| 滞在先 | 開設期間 | 誰を受け入れるか | 主な施設 | 訪日団体での使いどころ |
|---|---|---|---|---|
| 一時滞在施設 | 発災から72時間(最大3日間)程度まで | 行き場のない帰宅困難者を原則3日間 | 集会場、庁舎やオフィスビルのエントランスホール、ホテルの宴会場、学校等 | 宿に戻れないときの照会先。水・食料・ブランケットの配布と周辺情報の提供がある。ただし指定施設が安全確認のうえ開設したものに限られ、受入枠は保証されない |
| 災害時帰宅支援ステーション | 協定先の地方公共団体から要請を受けた時 | 徒歩帰宅者 | コンビニエンスストア、ファミリーレストラン、ガソリンスタンド、都立学校等 | 移動を再開した後の中継点。滞在先ではない |
| 避難所 | 発災から2週間程度まで(復旧状況によりそれ以上) | 住家を失った被災者が中心 | 学校、公民館等の公共施設 | 他に行き場がない場合の最後の選択肢 |
上表は東京都の制度である。 条例に基づく一斉帰宅の抑制と備蓄は東京都の事業者の努力義務であり、3日分と10%程度という数値は東京都ハンドブックが示す目安である。全国一律の制度ではない。地方部の行程では、滞在先の確保先をその自治体の計画で確認し直す。
滞在先の次に効くのは、夜間の人の手当てである。 標準旅行業約款は、添乗員等が業務に従事する時間帯を原則8時から20時までと定めている(第25条第2項)。20時以降も対応が要る局面では、交代要員と連絡責任者を先に決めておく。発災してから「誰が夜番か」を調整すると、最も人手が要る時間帯に穴が開く。
通信が輻輳したら、Wi-Fi の無料開放を案内できるようにしておく。 総務省が紹介する「00000JAPAN(ファイブゼロ・ジャパン)」は、平時は有料の公衆無線LANサービスを災害時に無料開放する民間の取組で、一般社団法人無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)のガイドラインに基づいて実施される。SSID 名をそのまま多言語の案内カードに印刷しておけば、口頭で説明する必要がない。
記録は、後の費用交渉で唯一の武器になる。 観光庁のガイドラインは2つの様式を挙げている。問い合わせメモには氏名・国籍・言語・性別、問い合わせ時間、対応内容を記録する。巡回レポートには巡回日付、時間、巡回者、巡回メモ、申し送り事項、留意事項を記録する。仕入先との取消料の分担交渉でも、保険金の請求でも、この2つの様式がないと時系列を再現できない。
台風で中止になった費用は、誰が負担するのか
旅行者は要件を満たせば無償で解除できる。一方、仕入先に対する取消料は個別契約に従って発生する。ここが逆ザヤの正体である。
約款は、旅行開始前に天災地変等で安全かつ円滑な実施が不可能、または不可能となるおそれが極めて大きいとき、旅行者は取消料を支払うことなく解除できると定める(第16条第2項第3号)。旅行開始後に旅行者の責によらずサービスを受領できなくなった部分も、無償で解除できる(第16条第3項)。
払戻しの条文がそのまま負担の境界線になる。 第16条第4項は、自社の責に帰すべき事由でない場合、受領できなくなった部分の金額から「取消料、違約料その他の既に支払い、又はこれから支払わなければならない費用に係る金額」を差し引いて払い戻す、と書いている。旅行開始後に自社が一部解除した場合も同じ構造である(第18条第3項)。
つまり、仕入先に対する取消料の発生と額は個別契約で決まり、旅行者への払戻額は第16条第4項等に従って、実際に発生する取消料等を差し引いて算定する。 両者の条件がずれた分だけ、自社の持ち出しになるおそれがある。バス、ガイド、宿泊施設それぞれの天災時の取消条件を、受注前に突き合わせておく。ここを揃えていない案件だけが、台風のたびに赤字になる。
変更補償金の側には、3つの数字の制約がある。
- 1,000円未満は支払わない。 旅行者1名・1旅行につき支払うべき額が1,000円未満のときは不払いである(第29条第2項)。
- 上限は旅行代金に15%以上の自社所定率を乗じた額。 率は各社が約款で定める(第29条第2項)。
- 支払期限は旅行終了日の翌日から30日以内。 支払う場合は期限がある(第29条第1項)。
ただし災害を理由とする変更では、そもそも1から3の手前で対象から外れる。 天災地変、官公署の命令、運送・宿泊機関等のサービス提供の中止、当初の運行計画によらない運送サービスの提供、参加者の生命・身体の安全確保のため必要な措置は、いずれも変更補償金の除外事由である(第29条第1項第1号イ・ニ・ホ・ヘ・ト)。
同行者の体調不良で保護措置を取った場合の費用も、分けて考える。 旅行中の旅行者が疾病・傷害等で保護を要する状態にあると認めて必要な措置を講じたとき、それが自社の責に帰すべき事由でなければ、費用は旅行者の負担である(第26条)。災害で足止めされた団体の中で発生しやすい論点なので、現場で立て替える前に社内の承認ルールを決めておく。
手荷物の損害には別枠の上限がある。 自社または手配代行者の故意・過失による手荷物の損害は、旅行者1名につき15万円が限度で、通知期限は損害発生の翌日から国内14日以内・海外21日以内である(第27条第3項)。天災地変など自社・手配代行者が関与し得ない事由による損害は、第27条第1項の場合を除き賠償責任を負わない(第27条第2項)。
2026年5月29日から変わった防災気象情報を、案内文にどう反映するのか
名称にレベルの数字が付いた。古い名称で書かれた多言語テンプレートは、そのまま使うと現場で意味が通らない。
気象庁は令和8年(2026年)5月29日から新しい防災気象情報の運用を開始した。警戒レベルとの対応が分かりにくかった河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮の情報が、5段階の警戒レベルに合わせて整理された。
| 警戒レベル | 大雨に関する情報(市町村ごと) | 河川氾濫(洪水予報河川・河川ごと) | 英語表記 | とるべき行動 |
|---|---|---|---|---|
| 5 | レベル5 大雨特別警報 | レベル5 氾濫特別警報/レベル5 氾濫発生情報 | Level 5 Emergency Warning (Heavy rain / Flood) | 緊急安全確保(レベル4までに危険な場所からの避難を終えておく段階) |
| 4 | レベル4 大雨危険警報(新設) | レベル4 氾濫危険警報 | Level 4 Urgent Warning (Heavy rain / Flood) | 避難指示。危険な場所にいる人は全員避難 |
| 3 | レベル3 大雨警報 | レベル3 氾濫警報 | Level 3 Warning (Heavy rain / Flood) | 高齢者等避難 |
| 2 | レベル2 大雨注意報 | レベル2 氾濫注意報 | Level 2 Advisory (Heavy rain / Flood) | 行程見直しの判断 |
| 1 | 早期注意情報 | 早期注意情報 | — | 災害への心構えを高める |
まず押さえるのは「危険警報」という新しい段階である。 レベル4相当の情報として大雨危険警報が新設された。英語表記は Urgent Warning で、Warning(レベル3)と Emergency Warning(レベル5)の間に入る。英語案内で Warning と Urgent Warning を訳し分けないと、レベル3とレベル4が同じ言葉になる。
次に、洪水警報がなくなった点に注意する。 気象台による市町村ごとの洪水警報・注意報の発表は行われなくなり、大雨に関する情報へ統合された。河川ごとの情報は、洪水予報河川(約400河川)が上表の名称、水位周知河川(約1,800河川)はレベル4氾濫危険情報/レベル3氾濫警戒情報/レベル2氾濫注意情報と名称が別である。その他の河川は約18,000ある。同じレベル4でも、川によって情報の名前と粒度が違う。
警戒レベル相当情報以外の英語表記は変更されていない。 波浪特別警報は High waves Emergency Warning、雷注意報は Thunder storm Advisory のままである。差し替えが要るのは大雨・河川氾濫・土砂災害・高潮の4種類に限られる。
配布物は作り直さなくてよい。内閣府は避難情報のポスター・チラシを14言語(英語、中国語簡体字、中国語繁体字、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語、タイ語、インドネシア語、タガログ語、ネパール語、クメール語、ビルマ語、モンゴル語)で公開しており、自由に利用できる。
BCP 文書に何を書けば、現場が動けるのか
観光庁の「自然災害発生時の訪日外国人旅行者への初動対応マニュアル策定ガイドライン」(平成26年10月)が挙げる平常時の準備は、次の8項目である。 対象は観光・宿泊施設だが、旅行会社の BCP にもそのまま移せる。
- 訪日客対応の組織体制・役割分担を明確にする。 指示を待たずに動ける分担にする。外国人支援団体、通訳ボランティア、在住外国人コミュニティー、旅行会社との連携も役割を決めておく。
- 安否確認の手段・方法を確立する。 平時から人数と出身国の内訳を把握しておく。
- 情報の入手先を特定する。 災害時に客が求める情報を整理し、情報源を先に決める。
- 情報提供の手段を整備する。 コミュニケーションカード、ピクトグラム、音声データを用意する。
- 地域の避難誘導先を確認する。 多言語対応できる避難所をリスト化し、運営者と調整する。
- 防災グッズを用意する。 通常の備蓄に加えて、宗教対応品とハラルフード等の宗教対応避難食を準備する。
- 教育・訓練を実施する。 訓練でマニュアルの有効性を確認し、改訂する。
- 問い合わせメモと巡回レポートの様式を準備する。
警告:このガイドラインの本文は「避難勧告・避難指示」という旧表記のままである。 現行の避難情報は警戒レベル4が避難指示に整理されており、避難勧告という区分はない。内閣府の「避難情報に関するガイドライン」は令和8年3月に改定されている。古い様式を社内テンプレートに取り込むと、訪日客に存在しない区分を案内することになる。
情報源は、次の固定リストから選ぶと迷わない(いずれも観光庁のツール紹介ページに掲載)。
| 情報源 | 何が得られるか | 言語 |
|---|---|---|
| Safety tips(観光庁監修アプリ) | 緊急地震速報、津波警報、気象特別警報等をプッシュ通知。対応フローチャート、コミュニケーションカード | 15言語 |
| Japan Visitor Hotline 050-3816-2787 | 24時間の電話対応。事故・病気・災害等の非常時サポートと一般観光案内 | 英語・中国語・韓国語・日本語 |
| Japan Safe Travel(JNTO) | 災害発生時に外国人旅行者が必要とする情報を発信。X は @JapanSafeTravel、weibo は 安心访日JapanSafeTravel | 主に英語・中国語 |
| Japan Safe Travel Information | 災害時の気象警報や交通情報 | 英語 |
| NHK WORLD-JAPAN | 24時間の英語ニュースチャンネル | 英語 |
| Safety Information Card | 有用なサイトをまとめた配布用リーフレット。ダウンロードして自由に利用可 | 英語・中国語簡体字・中国語繁体字・韓国語 |
Splendor Star は、日本の地接/DMC 型の B2B 予約プラットフォームである。 運営主体は株式会社 KIZUNA(2015年5月に東京・日本橋で設立、従業員約50名)で、東京都知事登録旅行業 第3-7520号を保有する(登録番号は https://splendor-star.co.jp/ja/about で公示)。なお第3-7520号は旅行業の登録であり、旅行サービス手配業の登録を兼ねるものではない。上表および本文の各区分に自社を当てはめた記述ではない点を明記しておく。
FAQ
Q. 台風で行程を短縮した場合、変更補償金は支払うのですか。 A. 天災地変またはサービス提供の中止を原因とする変更であれば支払いません。標準旅行業約款第29条第1項第1号の除外事由です。ただし代替手配の努力義務は残ります。
Q. 災害時、旅行者は取消料なしで解除できますか。 A. できます。旅行開始前に安全かつ円滑な実施が不可能、または不可能となるおそれが極めて大きいときは無償解除です(第16条第2項第3号)。仕入先の取消料は別問題です。
Q. 地震で宿に戻れない団体は、どこへ連れて行けばよいですか。 A. 差し迫った危険や避難指示がないことを確認し、安全な場所で待機させます。並行して自治体等が案内する一時滞在施設の開設状況を確認します。受入枠は保証されません。
Q. 防災気象情報の名称はいつ変わりましたか。 A. 2026年5月29日です。情報名称に警戒レベルの数字が付き、レベル4相当として大雨危険警報が新設されました。英語表記は Level 4 Urgent Warning です。
Q. 備蓄は何日分を用意すべきですか。 A. 東京都は3日分を目安としています。従業員向けの水・食料等に加え、来社中の顧客など外部の帰宅困難者向けに10%程度の上乗せをハンドブックで示しています。
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Last updated: 2026-10-27